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過払い金問題に関する重要論点に関する当事務所の獲得判決

 

平成23年4月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 房州 泰典

平成23年(ネ)第○○○号不当利得返還等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所

平成21年(ワ)第○○○○○号)

口頭弁論終結日・平成23年3月30日

 

判          決

○ ○ ○ ○ ○ ○

控   訴   人
○   ○   ○   ○
同訴訟代理人弁護士
堀   井   亜   生
同 
田   村   勇   人
長   島       功
同訴訟復代理人弁護士
野   上   恭   史

東京都千代田区大手町1丁目2番4号

被控訴人
プロミス株式会社
同代表者代表取締役
久    保      健
同訴訟代理人弁護士
鈴   木   康   之
中   山   和   人
金   子   桂   輔
同 
今   井   多 恵 子
藤   田   悟   郎
松   谷   真 之 介
同訴訟復代理人弁護士
榊   山   彩   子

主         文

1 原判決を次のとおり変更する。

  (1)被控訴人は,控訴人に対し,55万8293円及びうち53万5181円に対する平成21年7月30日から支払済みまで年5年分の割合による金員を支払え。

     (2)控訴人のその余の請求を棄却する。

2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを4分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人の負担とする。

3 この判決は,第1項の(1)に限り,仮に執行することができる。

 

事 実 及 び 理 由

 

第1 控訴の趣旨

1 原判決を次のとおり変更する。

2 被控訴人は,控訴人に対し,72万8007円及びうち53万5679円に対する平成21年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を,うち16万9177円に対する平成21年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 

第2 事案の概要

1 本件は,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号により法律の題名が貸金業法に改められた。 (法)) 3条所定の登録を受けた貸金業者である被控訴人との間で原判決別紙計算書1-1の金銭消費貸借取引( 第1取引 )及び同計算書2-1のうち平成19年9月28日以後(25万6944円の借入で始まる取引)の金銭消費貸借取引( 第3取引 ),並びに株式会社クオークローン(クオークローン)との間で同計算書2-1のうち,同日(25万6944円の返済で終わる取引)までの金銭消費貸借取引( 第2取引 )によって金銭の借入れと弁済の取引を継続していた控訴人が,利息制限法1条所定の利息の制限額を超えて利息として支払った部分( 制限超過部分 )を元本に充当すると過払金が発生し,被控訴人は,クオークローンからの契約上の地位の譲渡,債務引受けによって,あるいは信義則違反等の理由により,第2取引により発生した過払金返還債務を引き継ぎ,かつ,被控訴人及びクオークローンは,いずれも民法704条の悪意の受益者であると主張して,上記各取引から発生した過払金の返還及び利息の支払を求めるとともに,被控訴人が控訴人の過払金返還請求に対して長期間任意の返還に応じなかったことが不法行為に当たるとして,その損害の賠償を求める事案である。

 なお,控訴人と被控訴人との金銭消費貸借取引は,借主である控訴人が借入限度額(極度額)の限度内であれば繰り返し借入れをすることができ,毎月定められた返済期日に残元本額に対応して定められた最低返済額以上の返済をするという内容のいわゆるリボルビング方式の取引である。

 

2 原審は,控訴人の請求のうち,過払金の返還及び利息として29万2310円及びうち28万4557円に対する平成21年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分を認容したが,その余の請求を失当として棄却した。

    当裁判所は,原審と同じく,控訴人の不法行為に基づく請求は棄却すべきものと判断したが,過払金等の請求については,原審の認容額を超えて控訴人の請求を認容すべきものと判断した。

 

3 前提事実並びに争点及び争点についての当事者の主張は,次のとおり改めるほかは,原判決の事実及び理由の「第2 事案の概要等」 2及び3(原判決2頁16行目から6頁19行目まで。別紙計算書1-1及び同2-1を含む。)に記載のとおりであるから,これを引用する。

   (1)原判決2頁25行目「別紙計算書2-1」から末行「平成19年9月28日までの間,」までを「同日から平成19年9月28日まで(同月28日については25万6944円の返済まで)の間,別紙計算書2-1のうちの上記期間に対応する取引日,借入額及び返済額欄記載の」に改める。

   (2)原判決3頁5行目「別紙計算書2-1」から6行目「継続的に」までを「同年10月25日から平成21年7月29日までの間,被控訴人に対し,別紙計算書2-1のうちの上記期間に対応する取引日及び返済額欄記載の」に改める。

   (3)原判決3頁11行目から5頁初行までを次のとおり改める。

    「ア 控訴人の主張

    (ア)契約上の地位の譲渡

 クオークローンは被控訴人の100パーセント子会社であったが,被控訴人とクオークローンは,平成19年6月18日,クオークローンが消費者ローン事業を廃止するのに伴って,同社が負担する過払金返還債務を被控訴人が併存的に引き受けて紛争の窓口になること等を内容とする業務提携契約(本件業務提携契約)を締結した。本件業務提携契約は,被控訴人が,クオークローンと顧客との間の貸付債権,貸付義務,過払金返還債務,過払金充当合意による精算義務のすべて,すなわちクオークローンの契約上の地位を承継することを合意するものである。

 他方,被控訴人は,控訴人に対し,クオークローンとの取引が今後は被控訴人との取引となり,金利が安くなるので店頭に来て欲しいと連絡して被控訴人との取引の継続を勧誘し,店頭に赴いた控訴人との間で,契約切替と称して,クオークローンとの取引に係る約定利息による残高を貸し付けた上(本件借換え),これをクオークローンに送金する扱いをした。控訴人は,本件借換えによって貸主が交替しただけという認識で被控訴人のグループの再編に受け身的に協力したにすぎない。

以上のような本件業務提携契約から本件借換えまでの手続によってクオークローンの貸主たる地位が被控訴人に移転すると解することが,当事者の合理的意思に合致する。

    (イ)併存的債務引受けと受益の意思表示

     a  被控訴人は,上記のとおり,平成19年6月18日にクオークローンが顧客に負担する過払金返還債務を併存的に引き受けた(本件債務引受け)。

併存的債務引受けは,受益者である債権者にとっては何ら不利益のない契約であるから,債権者の受益の意思表示がなくともその効力が発生するものと解すべきである。仮にそうでないとしても,旧債務者の債務を新債務者が負担することについて受益者である債権者の意思に反していないということを認め得るだけの意思表示があれば,これを受益の意思表示と解すべきである。

     b 控訴人が被控訴人から受け取った「残高確認書兼振込代行申込書」(乙イ21。本件申込書)には,「契約切替後のお問合わせ窓口,および株式会社クオークローンにおける本日までの取引に係る紛争等の窓口は,従前の契約先に係わらずプロミス株式会社となることに異議はありません。」との記載がされているが,控訴人は,本件記載を読んで,契約切替手続に応じても不利益はなく,切替後は被控訴人に対してなお過払金返還請求を含む紛争を求められることを前提として,これに異議を述べないことに同意して本件申込書に署名し,これを被控訴人に提出した。この署名は,被控訴人がした併存的債務引受けに対する受益の意思表示というに十分なものである。

    (ウ)信義則違反

      被控訴人が,自らのコスト構造改革に控訴人を協力させながら,クオークローンが負っていた過払金返還債務(本件過払金返還債務)を承継しないと主張することは,信義則に反する。

また,被控訴人は,本件債務引受けの合意をした顧客に本件借換えに応じるように働きかけていた上,顧客からの本件借換えや利息返還に関する苦情を被控訴人の責任において処理することとして,その交渉の窓口となることを通知した。控訴人は,この通知によって被控訴人がクオークローンの従前の取引を実質的に引き継ぐものと理解したものであるが,それにもかかわらず,被控訴人が本件過払金返還債務を承継しないと主張することは禁反言の原則に反する。

 さらに,本件借換え当時,被控訴人は,クオークローンが本件過払金返還債務を負担していたことを認識していた。仮に被控訴人が本件過払金返還債務を承継しないとすると,控訴人のクオークローンに対する過払金の回収が事実上不可能になるのに,被控訴人は,控訴人の無知に乗じ,本件借換えに応じれば利息が下がり,あたかも控訴人の利益になるかのように告知して,控訴人のクオークローンに対する約定債務に相当する金額を貸し付けたものである。このような事情の下で,被控訴人が本件過払金返還債務を承継しないとして,控訴人に本件借換えによる被控訴人に対する債務を負担させることは,当事者間の公平を著しく損なうものである。

 以上のとおり,被控訴人が本件過払金返還債務を承継しないと主張することは,信義則に反し許されないというべきである。

    (エ)債務引受け広告

     a  被控訴人は,被控訴人が本件借換え後のお問合わせ窓口およびクオークローンとの取引に係る紛争の窓口となることを本件申込書に記載している。この記載は,クオークローンが顧客に対して負担していた不当利得返還請求権に関する紛争の相手方が被控訴人であることを明示し,その前提として債務の承継を認めたものというべきであるから,商法18条1項に定める債務を引き受ける旨の広告に当たる。

     b 被控訴人とクオークローンは,平成19年10月までに,クオークローンの新規貸付けと既存会員への追加貸付けを中止し,保有する貸付金債権を被控訴人に譲渡する,クオークローンの有人店舗23店,集中センター6拠点,債権管理センター4拠点をすべて廃止し,可能なり管理部門をスリム化する,クオークローンの社員は,債権回収等担当の一部社員を残し,その余は被控訴人グループ内で適正な配置をするという組織再編に係る施策を実行した。クオークローンは,被控訴人の100パーセント子会社であり,被控訴人の自動契約機に乗り入れて被控訴人と同一の基盤に立った営業を行っていたものである。

 したがって,上記の組織再編は,商法18条の営業譲渡に当たるというべきである。

     イ 被控訴人の主張

    (ア)契約上の地位の譲渡がなされていないこと

      被控訴人は,クオークローンが事業環境の変化によって貸金業の継続を断念し,新規貸付け及び既存顧客に対する追加貸付けを停止することを決定したことを受け,クオークローンの親会社として追加貸付けを希望するクオークローンの顧客の需要に応え,かつ,クオークローンの貸金業の継続断念による不利益を極力顧客に及ぼさないようにするため,顧客が被控訴人との取引を新たに開始することを希望する場合には,所要の査定を経てこれに応じることとして契約の切替を行ったにすぎない。したがって,被控訴人は,クオークローンから,控訴人との間の契約上の地位の譲渡を受けたものではない。このことは,被控訴人が契約の切替に当たっては,当該顧客に対する与信審査を実施していること,クオークローンの顧客に対する過払金返還債務を差し引くことなく,利率を引き下げ,極度額も新たに設定する等して契約条件を変更した上,顧客に対してクオークローンに対する約定による貸付残額を貸し付けて出損し,クオークローンは当該顧客からその送金を受けてこれを受領していること,控訴人も本件借換えに際してクオークローンとの間の契約書その他の書類をすべて破棄することを依頼していることからも明らかである。

    (イ)受益の意思表示について

      本件債務引受けは第三者のためにする契約であるから,受益者である第三者の受益の意思表示が必要であるが,本件申込書の記載内容は,被控訴人が本件過払金返還債務について併存的債務引受けをしていることをうかがわせるものではなく,そもそも控訴人は本件債務引受けを知らないのであるから,本件申込書に係る申込みをしたからといって,本件債務引受けについて受益の意思表示をしたものとはいえない。

      そして,本件債務引受けは,その後の変更契約によって消滅したから,控訴人が被控訴人に対して本件債務引受けに係る請求権を取得することはない。

    (ウ)信義則違反について

     クオークローンが貸金業の廃業を決めたのは,同社の存続環境が厳しくなったことによるものであり,顧客の便宜を考えて本件借換えを勧めること,併存的債務引受けの期間を限定することのいずれについても合理的な理由がある。そもそも控訴人は本件債務引受けを知らなかったのであるから,被控訴人が本件過払金返還債務を負担することについて何らの信頼も生じていない。また,控訴人はもともとクオークローンに対して本件過払金返還債務の履行を請求できたにすぎなかったのであるから,被控訴人に本件過払金返還義務を負担させることの方が不公平である。

(エ)債務引受け広告について

 クオークローンから被控訴人に営業譲渡がされた事実はなく,本件申込書の記載は,貸金債権に関する紛争の窓口になることを明らかにしたものにすぎず,被控訴人がクオークローンの債務を負担することを明らかにしたものでもない。本件で,商法18条1項の適用はあり得ない。」

 (4)原判決5頁2行目「被告」を「被控訴人及びクオークローン」に改める。

第3 当裁判所の判断

1 債務引受けと受益の意思表示

控訴人は,クオークローンとの間で,第2取引を行っていたが,平成19年9月28日に本件借換えを行って被控訴人からの借入れによってクオークローンに対する約定による債務を完済し,その結果,第2取引において過払金が発生した。

 控訴人は,被控訴人が,第2取引によってクオークローンが負担していた債務を承継し,あるいは引き受けたと主張するので,以下,この点について検討する。

(1)証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。

 ア 被控訴人は,前記平成18年の法改正等による事業環境の変化に対応するため,その金融子会社の再編を図ることとし,その一環として100パーセント子会社であったクオークローンの新規貸付けを中止することとし,平成19年6月18日にクオークローンを含む子会社との間で締結された「プロミスグループ国内金融子会社再編における基本合意書」に定められた債権移行のうち,被控訴人とクオークローンの顧客との間で締結される消費者向け無担保ローンに関する契約及びその媒介業務等に関して,クオークローンとの間で次の内容を含む本件業務提携契約を締結した(甲8及び弁論の全趣旨)。

  1. クオークローンの顧客のうち,被控訴人との間で極度貸付基本契約を含む消費者向け無担保ローンに関する契約(切替契約)の案内の対象となる顧客(対象顧客)を選定し,(2条(2)),ポスター,ホームページで切替契約に関する公示を行い(4条(1)),クオークローンは,対象顧客からの切替契約の申込みを被控訴人に媒介する(3条1項)。
  2. クオークローンが,被控訴人との切替契約を締結したクオークローンの顧客(契約顧客)に対して負担する利息返還債務及び同債務に付帯して発生する経過利息の支払債務,その他クオークローンが契約顧客に対して負担する一切の債務について,被控訴人及びクオークローン双方が連帯してその責めを負うものとし,これに生じた被控訴人とクオークローンとの連帯債務における両者の負担部分は,被控訴人が0割,クオークローンが10割とする(本件債務引受け。5条2項,2条(4)。5条には「併存的債務引受と費用負担」という見出しが付されている。)。

被控訴人及びクオークローンは,契約顧客に対して,切替契約後におけるすべての紛争に関する申出窓口を被控訴人とする旨を告知する(5条3項)。

契約顧客から利息返還請求等の申し出が被控訴人,クオークローンのいずれになされた場合でも,被控訴人は申出窓口の管理者として善良なる注意をもって対応する(5条4項)。

契約顧客がクオークローンに対して支払済みの金員に対し,不当利得を根拠に利息返還請求を行い,5条2項に基づき被控訴人が利息返還債務等を履行した場合は,被控訴人は同項に定める負担割合に従い,クオークローンに対する利息返還債務等に係る求償権を取得し,当該求償権を行使することができるものとする(5条5項)。

         5条は本契約が終了された場合も存続する(5条7項)。

      (ウ)対象顧客から被控訴人又はクオークローンに対して,切替契約に関する苦情等があったときは,紛争が生じた場合も含めて,被控訴人の責任において処理するものとする(6条1項)。

        イ 以上のとおり,本件業務提携契約は,クオークローンの顧客のうち,切替契約の対象となる顧客を選別した上,対象顧客に対して切替契約に応ずるように勧め,その結果切替契約を締結した顧客(契約顧客)については,クオークローンが負担する過払金返還債務等を被控訴人が併存的に引き受け,クオークローンとの取引,切替契約及びこれら取引に係る紛争の窓口を被控訴人とする一方,被控訴人がクオークローンと契約顧客との間で発生した過払金等を返還した場合は,被控訴人がそのすべてをクオークローンに求償できることを定めたものである。

        ウ クオークローンは,平成19年6月1日,新規貸付けを停止した(弁論の全趣旨)。

        エ 被控訴人とクオークローンは,本件業務提携契約に基づいて,控訴人を切替契約の対象顧客として選別した上,本件申込書(乙イ21)を控訴人に送付して,クオークローンに対する約定による債務残高が25万6944円であること,この債務を被控訴人からの借入れにより完済する切替契約に基づいて,被控訴人にクオークローンに同額の振込代行を依頼すること,被控訴人が契約切替後の問合せやクオークローンとの取引に係る紛争の窓口となることについて確認及び同意を求め,控訴人は,平成19年9月28日,被控訴人から切替契約に応じれば利率が低くなると説明を聞いた上,本件申込書に署名してこれを被控訴人及びクオークローンに提出した。

そして,控訴人は,同日,被控訴人との間で,同日現在のクオークローンと控訴人との取引における約定による残高である25万6944円を極度額とする金銭消費貸借に係る基本契約を締結して同額を借り入れ,被控訴人は,控訴人に代わって同額をクオークローンの口座に振り込んだ(乙イ1から4)。

       (2)上記認定事実によれば,本件借換えは,プロミスグループが進めていた企業再編の方針の下で,貸金業を廃業するクオークローンから親会社である被控訴人への債権移行の一環として行われたものであり,控訴人は,クオークローンは賃金業を廃業するため,同社からの新たな借入れはできないが,本件借換えをすれば,クオークローンとの間の従前の金銭消費貸借取引(第2取引)と異ならない金銭消費貸借取引を被控訴人との間で継続できるという認識の下に本件借換えに応じたものと認められる。また,本件借換えにおいては,被控訴人との間の新たな取引について,クオークローンとの間の取引よりも低い約定利率が提示されていたのであるから,被控訴人ないしクオークローンから本件借換えに伴う控訴人の不利益について説明がなされない限り,控訴人が本件借換は自分にとって利益になることはあっても,不利益になることはないと考えて本件借換えに応じるのは当然であり,控訴人がそのように考えて本件借換えに応じるのは,上記債権移行を進めたい被控訴人及びクオークローンの意図したことであったというべきである。

本件借換えに当たって控訴人が被控訴人及びクオークローンに対して提出した本件申込書(乙イ21)には,プロミスグループ再編により契約の切替をする旨が明記されており,「契約切替後のお問合せ口窓口,および株式会社クオークローンにおける本日までの取引に係る紛争等の窓口は,従前の契約先に係わらずプロミス株式会社となることに異議はありません。」と記載されている。本件借換えが行われた平成19年9月28日ころは,「利息制限法の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときは当然に期限の利益を喪失する」旨の特約の下での制限超過利息の支払について,特段の事情のない限り法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものとはいえないと判示した最高裁判所平成16年(受)第1518号同18年1月13日第二小法廷判決(民集60項巻1号1頁。平成18年判決)をはじめとする一連の同項に関する最高裁判決を受けて,貸金業者に対して借主が過払金返還請求をするということが急増していたことは公知の事実であるから,上記のような本件申込書の記載内容は,本件借換えは自分にとって利益になることはあっても不利益になることはないと考える控訴人に対し,過払金返還の問題も含めて,クオークローンではなく,被控訴人が紛争解決の責任を持つものと認識させるに十分なものであり,控訴人はそのように認識し,それを了承して本件借換えを行ったものと推認される。

本件申込書には,形式的には「紛争等の窓口」と記載されているが,その記載について,被控訴人が控訴人に対し,「単に窓口にすぎず,紛争についての責任を負わない」旨を説明したことをうかがわせるような証拠は何ら存しない。また,上記認定のとおり,本件業務提携契約において,切替契約を締結した顧客に対する本件債務引受けに関する合意がされており,本件債務引受けは,本件業務提携契約が終了した場合も存続すること,顧客からの過払金の返還に関する苦情について被控訴人の責任において処理することなども合意されていたのであるから,本件申込書の記載によって,控訴人が,クオークローンに代わって被控訴人が紛争解決の責任を負担するものと認識することは被控訴人の予定するところであり,被控訴人としてもそのような控訴人の認識に沿う対応をする意思であったものと解され,「紛争等の窓口」との記載によって責任を免れる意図であったとは解されない。

 したがって,控訴人は,クオークローンとの取引に関する紛争は,過払金返還の問題も含めてクオークローンではなく被控訴人が紛争解決の責任を負うことになるものと認識し,これを了承して本件借換えを行ったものと認めるのが相当であり,さらに,そのような責任者の変更についてはプロミスグループ再編のためのものであるから,当然,クオークローンと被控訴人との間に合意(責任者変更合意)が成立していると認識していたものと認めるのが相当である。

そして,その責任者変更合意に相当するものとして,本件債務引受けが存在していたのであるから,控訴人は,被控訴人及びクオークローンに対して本件申込書を提出した上で本件借換えを行ったことにより,本件債務引受けの効力を受け入れる意思を表示したもの(本件受益の意思表示)と解するのが相当である。そして,本件債務引受けが,控訴人のようなクオークローンの顧客(契約の切替えをする者)の利益保護を目的とした第三者(顧客)のための契約であることは本件業務提携契約の内容から明らかであるから,本件受益の意思表示により,被控訴人は,控訴人に対し,本件債務引受けに基づき,過払金返還債務を含む第2取引におけるクオークローンの債務を履行すべき義務を負うに至ったものというべきである。被控訴人は,本件債務引受けは,その後の変更契約によって消滅したと主張するが,受益の意思表示をした控訴人の承諾がない以上,その効力を主張することはできない。

そうすると,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人は,控訴人に対し,クオークローンの過払金返還債務を負うことになるから,過払い金の算定にあたって,クオークローンとの間の第2取引と切替契約後の被控訴人との間の第3取引を一体の取引として取り扱うことになる。なお,前記認定の第2,第3取引の内容及び本件借換えの経緯から判断すれば,第2取引,第3取引のいずれについても過払金が発生すれば,新たな借入金債務に充当する旨の合意が含まれ,本件借換えにあたっては,第2取引によって過払金や利息が発生していれば,第3取引による新たな借入金債務に充当する旨の合意があったものと解される。

 

2 その余の争点のうち,被控訴人が悪意の受益者か否か,控訴人の損害賠償請求が認められるか否か,被控訴人の消滅時効の抗弁が認めれるか否かについての当裁判所の判断は,以下のとおり改めるほかは,原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」2から5(原判決10頁9行目から13頁16行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

     (1)原判決10頁9行目及び18行目の各「被告」をいずれも「被控訴人及びクオークローン」に,11頁19行目末字「最」から21行目「判決を」までを「平成18年判決を」にそれぞれ改め,11頁23行目から12頁3行目までを次のとおり改める。

     「ウ ①法が制定された際に発せられた大蔵省銀行局通達(昭和58・9・30蔵銀第2602号)の第2の4に,「包括契約に基づく貸付けについての書面の交付は,次による。(イ)包括契約を締結したとき及び当該包括契約に基づく貸付けを行ったときには,そのいずれのときにも書面を交付しなければならない。(ロ)包括契約を締結したときに交付する書面には,法第17条1項に掲げる事項中,当該包括契約において特定しうる事項を記載しなければならない。(ハ)包括契約に基づく貸付けをしたときに交付する書面には,貸付けの金額,貸付けの年月日及び当該包括契約の契約番号を記載しなければならない。」と記載されており,この記載内容は,平成10年6月の金融監督庁の設置に伴い,金融監督庁事務ガイドラインに引き継がれたが,その際,「包括契約を締結したとき及び当該包括契約に基づく貸付けを行ったときは,そのいずれの場合にも,その内容を明らかにする書面をその相手方に交付すること。また,その書面は,少なくとも両書面を併せてみるときそれが法第17条第1項の要件を充足したものであり,債務者が自己の債務の内容を正確に把握し,弁済計画の参考としうる程度の一義的,具体的,明確なものであること。」と変更され,その後,平成12年に「少なくとも両書面を併せてみるときそれが法第17条第1項の要件を充足したものであり,」との部分が削除されて金融庁事務ガイドラインに引き継がれたこと,②法施行規則(内閣府令。法施行当時は大蔵省令。規則)15条2項には,平成18年判決で法の委任の範囲を逸脱した違法な規定であると判示され,その改正がされるまで,「貸金業者は,法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項第1号から第3号まで・・・・に掲げる事項の記載に代えることができる。」と定めていたこと(法18条1項1号は「貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所」,2号は「契約年月日」,3号は「貸付けの金額」),③最高裁判所平成17年(受)第560号同年12月15日第一小法廷判決(民集59巻10号2899頁)は,貸金業者は貸付けに係る契約の性質上17条書面に法17条1項所定の事項について確定的な記載をすることが不可能な場合には同書面に当該事項に準じた事項を記載すべきであるとして,いわゆるリボルビング方式による貸付けについて,17条書面には「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」として,当該貸付けを含めたその時点での全貸付けの残元利金につき,毎月定められた返済期日に最低返済額及び経過利息を返済する場合の返済期間,返済回数及び各回の返済金額を記載すべき旨を判示したが,同判決までにこの判決によって示されたのと同様の記載方法を明示した下級審裁判例で公刊物に登載されたものは,神戸地裁平成7年8月8日判決(消費者法ニュース25号35頁)くらいしか見当たらない状況にあったこと,④上記のような状況の下で,リボルビング方式による貸付けのように,17条書面に「返済期間及び返済回数」や各回の「返済金額」について確定的な記載ができない場合は,第1取引において,平成14年9月まで被控訴人が行っていたように,基本契約書に返済期間及び返済回数の予定の算出方法及び最長返済回数を記載するにとどめることが一般的に行われており,18条書面についても,第1取引において被控訴人が行っていたように,規則15条2項に基づいて基本契約書の契約番号を記載することが一般的に行われていたことは公知の事実である。

そして,上記認定事実によれば,被控訴人は,第1取引が行われていた期間中,控訴人に対し,店頭において又はATMにより,上記内容の17条書面及び18条書面を交付していたのであるから,被控訴人が同取引について法43条1項の適用があると認識し,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてはやむを得ないといえる特段の事情があるというべきである。」

     (2)原判決12頁23行目から13頁4行目までを次のとおり改める。

      「また,クオークローンが,第2取引について制限超過部分の利息を弁済として受領したことについて法43条1項の適用があるとの認識を有し,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があることについては何ら主張,立証もないから,クオークローンは民法704条の悪意の受益者に当たると認められ,過払金が発生した時からその返還債務につき民法所定の年5分の割合による利息の支払い義務を負う。被控訴人は,前記の通り,企業再編の一環としてクオークローンの控訴人に対する債務を併存的に引き受けたものであり,クオークローンによる第2取引の内容を熟知していたものと推認されるから,第2取引による悪意の受益者としての過払金返還債務を承継したというべきであるが,第3取引を通じて第2取引による過払金債務が第3取引の借入金に充当されたことを前提とした受取証書の記載,交付をしていないので,第3取引で更に増加した過払金返還請求権についても,民法704条の悪意の受益者というべきであり,同条の利息支払義務を負うものといわなければならない。

そうすると,本件各取引について,制限利率に従って充当計算をすると,いずれも最終取引日である平成21年7月29日において,第1取引については,原判決別紙計算書1-2のとおり,過払金28万4557円及び過払金に対する残利息1万1591円が発生し,第2及び第3取引については,同計算書2-1のとおり,過払金25万0624円及び過払金に対する残利息1万1521円が発生していたことになる。」

      (3)原判決13頁14行目から15行目「第1取引及び第3取引」を「本件各取引」に改める。

 

3 以上によれば,控訴人の請求は,被控訴人に対し,不当利得返還請求権に基づき,本件各取引による過払金53万5181円及び過払利息2万3112円の合計55万8293円並びにうち過払金53万5181円に対する平成21年7月30日から支払済みまで年5分の割合による過払利息の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない(貸金債権は残存していないので,被控訴人の相殺の抗弁は成立する余地がない。)。

 よって,原判決のうち,以上と異なる部分を変更し,主文のとおり判決する。

 

  東京高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官
福   田   剛   久
裁判官
田   川   直   之

 裁判官始関正光は,転補につき,署名押印することができない。

裁判長裁判官
福   田   剛   久

 

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